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2026年09月08日
No.10005394

古着が「資産」になる時代|ヴィンテージ市場で何が起きているのか

古着が「資産」になる時代|ヴィンテージ市場で何が起きているのか

数十年前に作られたジーンズやTシャツが、いま再び高値で取引されている。ときには新品時の価格を大きく上回り、著名人の着用品では数千万円規模に達する例もある。古着好きは昔からいた。それでも現在のヴィンテージブームは、単なる懐古や節約では説明しきれない。過去のカルチャーを身にまとうこと、他人と被らない一着を探すこと、そして希少品として所有することまでが価値になっている。なぜ、昔の服がいま再び欲しがられるのか。ヴィンテージ古着の価格を押し上げる背景を追った。

中古衣料は、すでに大きな流通市場を形成している。経済産業省が米国のリセール事業者thredUPの調査を紹介した資料によると、世界の中古衣料市場は2022年の1770億ドルから、2027年には3510億ドルへ拡大すると予測されている。これはヴィンテージだけの数字ではないが、中古衣料を購入すること自体が世界的な市場として定着していることを示す材料になる。日本でも消費者庁の2021年度調査では、「古着を購入する」と回答した割合は全体14.8%に対し、10代後半20.0%、20代19.9%だった。

実際の売り場では、定番ブランドへの需要と、過去の商品を再評価する動きが並行している。セカンドストリートが全国約900店舗を対象に集計した2025年のカジュアルブランド販売数量ランキングでは、1位が「THE NORTH FACE」、2位が「Levi’s」、3位が「POLO RALPH LAUREN」だった。同社はLevi’sやPOLO RALPH LAURENについて、根強いアメカジ人気と古着トレンドを背景に販売数量、金額ともに好調に推移していると説明している。

その中で、過去の商品そのものが価値を持つ例として分かりやすいのがSTUSSYだ。セカンドストリートの2025年上半期ランキングでは6位に入り、前年の7位から順位を上げた。同社は1980~90年代に販売された「OLD STUSSY」について、希少性や当時のストリートカルチャーを象徴する魅力から、リユース市場で高値を呼んでいると説明している。2026年3月には東京・下北沢に、ヴィンテージやオールドのメンズ古着を中心に約3000点を扱うコンセプトショップも開設した。1社の販売実績だけで市場全体を語ることはできないが、過去の商品を現在の商材として改めて売り場化する動きは具体的に表れている。


では、中古衣料の選択肢が広がる中で、なぜ一部のヴィンテージは新品時を上回る価格で取引されるのか。大きな違いは、供給を簡単には増やせないことにある。現行商品なら需要に応じて追加生産できる場合があるが、20年、30年前の商品は新たに作ることができない。良好な状態で残る数が限られる中で、ある年代やブランド、デザインが再評価されれば、現在の商品とは異なる価格形成が起こる。OLD STUSSYについてセカンドストリートが安定的な在庫確保を課題に挙げていることも、人気が高まった商品を二次流通だけで確保する難しさを示している。

価値を決めるのは「古い」という事実だけではない。ヴィンテージデニムはその典型だ。Levi Strauss & Co.のアーカイブには、1870年代の「9Rivet」と呼ばれるジーンズが保存されている。同社による調査でアーカイブ内最古のブルージーンズと確認されたもので、2024年には当時の特徴を再現したモデルを800本限定で発売した。150年近く前の商品が保存・研究され、その仕様自体が現在の商品として再提示されていることからも、ヴィンテージでは年代だけでなく、その時代にしか存在しなかった仕様や背景そのものが価値になり得ることが分かる。

Tシャツも基本的な考え方は近い。バンドや映画、アート、ストリートカルチャーなどと結び付いた商品は、単に古いから評価されるわけではない。どの時代のどのカルチャーと結び付いた商品なのか、当時の商品がどの程度残っているのか、保存状態はどうかといった違いによって評価は変わる。後年に同じデザインが復刻されても、当時販売された一着と市場で同じ意味を持つとは限らない。日用品だった服が時間を経てコレクションの対象へ変わるところに、ヴィンテージ市場の特徴がある。

さらに、「誰が着たか」という来歴が価値を左右することもある。ギネスワールドレコーズによると、Nirvanaのフロントマン、カート・コバーンが着用したLevi'sのジーンズは2023年11月、米国のオークションで41万2750ドルで落札され、「最も高額で落札されたジーンズ」の世界記録となった。「Heart-Shaped Box」のミュージックビデオやライブ、写真撮影でも着用された一着で、商品の希少性に加えて、本人が実際に身に着けたという来歴が価値を押し上げた。

もちろん、この41万2750ドルを一般的なヴィンテージデニムの相場と捉えることはできない。この一着は古いLevi'sであることに加え、カート・コバーンが実際に着用したというプロヴェナンスを持つ。通常の古着というより、音楽史に関わるメモラビリアやコレクターズアイテムとして評価されたものだ。それでもこの事例は、衣服の価格が素材や機能だけでは決まらず、希少性や文化的背景、来歴まで含めて形成されることがあるというヴィンテージ市場の特徴を象徴している。

では、古着は本当に「資産」になったのか。ここは慎重に見る必要がある。ヴィンテージ古着には、株式や金のような統一的な価格指標がなく、同じ商品でも年代やサイズ、状態、人気によって評価は大きく変わる。流行が変われば需要も変化し、購入価格以上で売却できる保証もない。つまり、金融資産と同じ意味での「投資対象」と考えるのは適切ではない。一方で、一部の商品が「新品より安く買う中古品」ではなく、希少性やコレクション性、将来のリセールまで意識して所有されるようになっていることは、従来の古着消費とは異なる動きといえる。

ヴィンテージ市場がビジネスとして興味深いのは、商品の価値が発売した瞬間だけで決まらないことだ。かつて大量に販売された商品であっても、時間が経ち、残る数が減り、その時代のデザインやカルチャーが再評価されれば、新たな需要が生まれる。長寿IPやシリーズを数多く持つパチンコ・パチスロ産業にも、この構造と重なる部分がある。過去のコンテンツを単なる「懐かしさ」として使うのではなく、現在のユーザーにどのような意味を持つものとして再提示するのか。ヴィンテージ古着を巡る動きは、時間の経過によって価値が失われるとは限らず、むしろ文脈を変えることで再び価値を持つ商品があることを示している。


文=アミューズメントジャパン編集部